技術コラム

ハイテン材(高張力鋼板)のプレス加工における3つの技術ポイント

近年、自動車部品を中心に、急速に需要が高まっているハイテン材(高張力鋼板)。多くのメリットを持っているものの、成型性・溶接性に課題があり、高精度・高品質を実現することは簡単ではありません。

本記事では、板鍛造・プレス加工のプロフェッショナルが、ハイテン材のメリット・デメリットやプレス加工における技術ポイントについて分かりやすく解説いたします。

<目次>

  • ハイテン材(高張力鋼板)とは?
  • ハイテン材の需要が高まっている理由
  • ハイテン材のメリット
  • ハイテン材のデメリット
  • ハイテン材のプレス加工における3つの技術ポイント
  • 当社のハイテン材の加工事例のご紹介
  • ハイテン材のプレス加工なら、当社にお任せください

ハイテン材(高張力鋼板)とは?

ハイテン材(英:High Tensile Strength Steel)とは、合金の配合割合を変えることで一般構造用圧延鋼材(SS材)より強度(引張強さ)を向上させた鋼板のことを指します。高張力鋼板と呼ばれることもあります。

「強度が○○以上のものをハイテン材と呼ぶ」という明確な定義はなく、鋼材メーカーや部品加工メーカーによって異なります。ただし、最も一般的なSS材であるSS400の引張強さが400MPaであるため、基本的にはそれ以上の引張強さをもつ鋼材がハイテン材と言えます。

ハイテン材の中でも流通量が多いのは、590MPaと780MPaのハイテン材ですが、近年では1,000MPa(1GPa)を超えるものも登場しています。一般的には、引張強さ980MPa以上のものは超ハイテン材(超高張力鋼板)、特に1,300MPaを超える鋼材は超強力鋼板とそれぞれ呼ばれます。

ハイテン材の需要が高まっている理由

近年、ハイテン材の需要が急速に高まっているのが自動車業界です。EV(電気自動車)シフトの潮流の中で、自動車の車体軽量化は急務です。これまで、ハイテン材は鉄道車両などに使用されていましたが、溶接性や加工性・成型性の問題から自動車にはあまり使用されてきませんでした。しかし、溶接技術や成型技術などの技術開発が進んだことにより、現在は広く普及しています。

ハイテン材のメリット

ハイテン材のメリットは、2つあります。

薄肉化・軽量化できる

ハイテン材は、一般的な鋼材よりも比強度が大きい材料になります。比強度というのは、重量比強度とも呼ばれますが、密度あたりの強度(引張強度)のことを指します。これにより、製品を薄肉にしても必要な強度を確保することができるため、軽量化を実現できます。

また、強度向上の目的で自動車や航空機等に使用されることが多いA2024・A7075といったアルミニウム合金よりも軽量で、且つコストを抑えることができます。

耐食性が高い

耐食性が高いというのも、ハイテン材のメリットの一つです。この性質を利用して、河川・橋梁等の鋼構造物や船舶、その他建築物などの材料にも多く使用されています。

加工後の防食処理の工程を削減することができるため、普通鋼に比べ短いリードタイムで納品することが可能です。

ハイテン材のデメリット

比強度が大きくコストも比較的低いハイテン材ですが、デメリットもあります。

材質の強度が高ければ高いほど延性・加工性・成型性が低くなります。そのため、①シワや割れ、うねりなどの成型不良が起こりやすい、②スプリングバックが発生しやすい、③「遅れ破壊」が起こりやすい、といった問題があります。

ハイテン材のプレス加工における3つの技術ポイント

ハイテン材のプレス加工において、高精度・高品質を実現するために重要な3つの技術ポイントについてご紹介します。

技術ポイント①:シワや割れ、うねりの抑制

前述の通り、強度に優れ延性に劣るハイテン材は、シワ、割れ、うねり等の成型不良が発生しやすいため、高品質が求められる外観部品や高精度が要求される部品の加工には不向きとされています。

この問題を解決するために鍵となるのが、CAEソフトによる解析・シミュレーション(CAE解析)です。CAEソフトを使用すると、応力や強度の計算のほか、材料流動のシミュレーションなど成型性の検証を行うことができるため、最適な金型設計および工程設計が可能になります。

このCAE解析により、材料の異方性の伸びを考慮した金型設計やシワなどの原因となる材料余りを発生させない成型法を実現することができます。

>>当社のCAE解析設備:CAEソフトウェア(ASTOM R&D製) プレス成型シュミレーション ASU/P-form

技術ポイント②:スプリングバックの制御

スプリングバックとは、成型(特に曲げ加工)後に荷重を取り除くと、一旦は変形した形状が元に戻ってしまう現象のことです。ハイテン材のように延性が低い材質は、スプリングバックが起きやすくなります。

この対策としては、下記の様な方法が有効です。

1.通常のプレス機ではなくナックルプレスで加工する
2.CAE解析を利用して成型後の残留応力を分析しそれを見込んだ金型設計を行う

1について、プレス機の代表的な機構として、クランクプレスとナックルプレスという2種類があります。前者は下死点に到達するとすぐに戻り工程に入りますが、一方後者は下死点に到達してもすぐに戻ろうとせず押さえ時間が長いため、ワークの形状が安定するという特徴があります。そのため、スプリングバックの対策をしたい場合はナックルプレスを使用するのが最適です。

2についてですが、ポイントとなるのが「形状凍結技術」です。形状凍結技術とは、残留応力の低減によりプレス成型後のスプリングバックやたわみの発生を制御する技術のことで、近年ハイテン材のニーズが高まる中で注目を集めている技術です。

当サイトを運営する株式会社池田製作所は、形状凍結技術をはじめとする最先端のプレス技術の研究・技術開発にも積極的に取り組んでおります。

技術ポイント③:遅れ破壊への対策

遅れ破壊とは、一定の引張荷重を加え続けていると、ある時突然起こる脆性破壊のことです。前兆がほとんど無く一瞬で破壊が起きるため、自動車部品のように人の安全に関わるものについては絶対に発生しないように対策する必要があります。

遅れ破壊の原因は、「水素脆化」という現象です。水素脆化とは、水素が局所的に金属内部に吸収されてしまうことにより、靭性が低下してしまう現象のことを指します。特にハイテン材のように強度が高い材質に起こりやすく、溶接や腐食により水素が吸収されてしまうため防ぐことは簡単ではありません。

水素脆化の発生可能性を評価する試験により対策が可能です。

当社の加工事例のご紹介

当社が過去に製造したプレス加工品をご紹介いたします。

>>ハイテン材の加工事例の一覧はこちら

ハイテン材のプレス加工なら、当社にお任せください

「板鍛造・プレス加工技術.com」を運営する株式会社池田製作所は、金型設計から各種プレス加工、
カシメ、溶接、カチオン電着塗装、高精度検査まで、すべて社内で一貫製造する創業75年の板鍛造・
プレス加工のプロフェッショナルです。
100台以上のプレス加工機に裏打ちされた設備力を背景に、板鍛造・プレス加工の試作から10万個/月
の量産までをワンストップで対応いたします。また、長年培ってきた加工ノウハウと実績にもとづく
図面段階からの設計提案も得意としており、品質向上やリードタイム短縮、コストダウンに関する各
種VA/VE提案を積極的に行っております。
ハイテン材のプレス加工のことなら、当社にお任せください。

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